清水比庵とは ―「今良寛」と呼ばれた、心優しく多才なアーティスト ―
清水比庵は、岡山県高梁市出身の歌人、書家、画家である。号は「比庵」の他に「匕舟」、「比舟」、「比安」。
比庵の芸術は歌が骨幹であるが、比庵は歌、書、画の3芸を嗜み、彼の絵画作品には賛歌が添えられているものが多い。
自身の思考に大きく影響を与えてくれた良寛の思考や作品が好きだったということもあるが、ビジネスマン出身でありながら多芸を嗜むその姿は、僧侶でありながら歌人、詩人、書家でもあった良寛のそれと重なり、晩年には「今良寛」、つまり「現代(昭和時代)の良寛」と呼ばれた。
比庵が芸術に本腰を入れ始めたのは50歳を過ぎてからであり、有名な作品のほとんどは晩年のものが主であるが、実は学生時代・会社員時代にも友人に絵手紙をたくさん送っており、残存するこれらの作品からは、まだ「比庵」と名乗る前の彼の思考や彼を取り巻く時代背景を窺い知ることができる。比庵の芸術家としての人生は若い頃に既に始まっていたのである。
自身がクリスチャンであると断定した文献も遺した言葉もないが、比庵の母の実家一同や妻鶴代がクリスチャンであったことから、キリスト教の教えからも大きく影響を受けており、生来の優しい性格に加わった博愛精神、平等精神、弱者への愛情、自由な心が彼の思考や作品に大いに表されている。