比庵のモットー
比庵には、その生涯の多くの出会いと経験の中で培われた信念がありました。
ここで彼の作品の随所に表現されている「比庵のモットー」を3つ、それぞれ比庵関連の書籍より文章を抜粋してご紹介します。
1.「毎日佳境」
― これが小生の標語である。歌詠みは常に佳作を得ることは難しい。しかし常に佳境に居るといふには心掛けである。歌が何故に楽しいかといへば、毎日佳境に居ることが出来るから楽しいのである。毎日佳境に居れば佳作は自然に偶然に出来る。佳作は求めても容易に出来ない。しかし佳境に居るといふことが本当にわかってくると佳作偶然度は多くなってくる。
― (随筆集「紅をもて」より)
2.「心貧しきものは幸せなり」(キリストの教え)
― この言葉に小生は非常に感動してこれがわが歌だと思った。心の貧しきもの、悲しみがわかっているものは結局悲しいものでなく幸福なのである。この意味の幸福の立場から小生は物を見て歌を作る。故に歌としては幸福な歌を作るが、心貧しきものの歌である。
― (短歌誌「窓日」昭和49年10月号 より)
「歌詠みて 九十に至る 悲しさを 九十歌を 悲しく詠まず」
3.「ありがたや ありがたや」
佐藤舜一郎「幸福道」の「ありがたやの教え」を比庵は生活にも作歌にも取り入れていた。90歳を過ぎると不義理を重ねるようになったが、感謝の念は人一倍持っていた。「如何なる時も人に感謝の心があれば常に和やかである。己は無理をしないことで長生きと勝負する」と言って「ありがたや ありがたや」を唱えていた。
「ありがたや ありがたやとて 毎日を たゞに送れば 長生きをする」
「ありがたや ありがたやとて 長生きし 名誉市民に なりてありがたや」